オフセット印刷では、必要なところ以外にインキがつかないように、版の非画線部には水が必要です。しかし水はいろいろな点でインキに影響をおよぼします。もし水とインキのバランスがうまく保たれていないと、乳化を起こして版面に浮き汚れが現れたり、印刷部分が水で洗われたようになってしまいます。この乳化がひどくなると、インキがパイリングを起こしたり、乾燥不良を起こしたりします。どんなオフセットインキでもある程度は乳化を起こしますが、インキと水のバランスをうまく保てば乳化は最小限にとどまり、インキは期待どおりの働きをするでしょう。
 オフセット印刷では、まずインキの量を少なくして下さい。そうすれば必要な水の量も少なくてすみます。印刷時に水が多すぎると、用紙にまで影響が及ぶことになります。というのは、ブランケットが版面からある程度の水分を受け取り、それを紙へと運ぶからです。ですから何色も印刷する場合には、その度ごとに紙は水分を吸収することになるので、インキの転移が悪くなったり、乾燥が遅れたり、見当が合いにくくなったりするでしょう。
 湿し水を調合する際には、濃縮液の入っている容器に貼ってある使用法に従って下さい。この場合にも、湿し水が酸性になりすぎないように、pH(ペーハー)を測って下さい。湿し水のpHは5.0〜5.5が適説です。湿し水にアルコールを加える場合には、アルコールを加える前に湿し水のpHを測定して下さい。

ここでもう一度、インキと水のバランスについての注意点をまとめてみましょう。

1.版上の画線部に送り出されるインキの量によって、非画線部をきれいに保つために必要な水の量が決まります。酸がこの機能を行うわけではありません。

2.インキつぼの調節ネジで、版面に必要なインキの総量を送り出すように調整してはいけません。調節ネジの役割は、画線部に均一のインキが皮膜が出来るように、幅方向に対するインキ量の分布を設定することだけです。

3.普通にインキを盛ったのでは得られないほど、濃く印刷するように指示されることがよくあります。この様なときには、少し色調を暗くしたインキを使って下さい。そうすれば、画線部につくインキは最小限におさえられます。インキと水が少なくなれば、迅速な乾燥と力強い色合いが得られます。

4.版面に対するインキ着けローラーと水着けローラーの圧力が強すぎると、インキを乳化させる原因になります(つまりロールミルのような働きをして、インキと水を混合物にしてしまう)。その他、水着けローラーのカバー(モルトン)が早く消耗したり、版の耐刷力が減少するばかりでなく、ローラーのストリッピングや水着けローラーが汚れやすくなるなどの問題も起きてきます。