1.湿し水の酸性度
 オフセット印刷では、インキと湿し水はローラー上で出会い、インキはその内部に非常に細かい水滴の形で、10%から30%の水を取り込むことになります。これは普通のことであり、その水は印刷物の中で消え去ります。しかし、浸し水のpHが酸性すぎると、インキと水のバランスがくずされ、次の3つの点で悪い影響をおよぼすことになります。

第一に;酸はインキの中のドライヤーに作用して、ドライヤーを不活性化させ、酸化の反応を遅らせるでしょう。コート紙でこのような乾燥の遅れが起こると、インキは表面でセットせずまた顔料を用紙にしっかり固着させることもなく、ワニスが用紙のコーティングコーティング層の中に吸い込まれて行くことになりますこの結果インキの表面はチョークのような状態になり、これはオーバープリントワニスで重ね刷りしなければ直すことが出来なくなります。
 プラスチックや金属箔のような無孔質素材にタフテックスで印刷する時には、酸性が強すぎると乾燥の遅れはひどくなります。それは、水が用紙に吸収されずにインキと一緒にかなり長い間表面にとどまっており、その間に水がゆっくり蒸発し酸が濃縮されて行くからです。

第2に;酸性が強すぎると、インキの耐水性を破壊して、地汚れを防ぐにはより多くの水を使わなければならなくなります。ですから、インキには多めの水が含まれ、印刷されたインキ皮膜の内部では水の粒子が大きくなるので、最終的には印刷部分がまだら模様になってしまいます。

第3に;酸性が強すぎると、金ローラーにストリッピングを引き起こさせ、インキの着きが不均一になったりします。酸性が強すぎる状態は、手軽なpH試験紙(pHテスター:V2052)で湿し水を測り、湿し水のpHを5.0から5.5に調整することによって防ぐことが出来ます。もしpHが低すぎる場合(酸性)には、湿し水にもっと水を入れて下さい。もしpHが高すぎる場合(アルカリ性)には、湿し水にもっと原液を入れて下さい。水道水のpHは、地域によってかなり変わってきます。もし水そのものが酸性すぎる場合には、規定の割合で水と湿し水原液を混ぜ、それに0.8%程度ファウンテンスティミュレーター(V2151)を加えて下さい。こうすれば、pHは5.0から5.5の範囲におさまるでしょう。


2.湿度
 夏の暑くて湿気の多い日には、すずしい気候の時より大気中に水分が多めに含まれています。たとえエアコンを使用しても、大気中の水分によって印刷室内の相対湿度は急激に上がることになります。そして用紙を湿った腰のない状態にしてしまいます。この状態では、インキが用紙上で乾燥するのに長い時間かかります。
 湿気の影響による乾燥の遅れは、その湿気が用紙から来るのか、大気中から来るのか、あるいは浸し水から来るのかということには左右されません。しかしこの状態は、印刷された用紙に風を入れたり、縦に立てておいたり、用紙間に乾いた熱い空気を吹き込むことによって克服できるでしょう。


3.温度
 インキは冷たい用紙より温かい用紙でのほうが、乾燥は早くなります。温度が5℃上がるごとに、乾燥時間は約25%短くなります。このことは、吸収乾燥のインキにも酸化乾燥のインキにもあてはまります。温度が上がると、印刷されるインキの粘度は下がるので、インキは用紙の中により急速に吸収されていくでしょう。また温度が上がると、酸化乾燥するインキの化学反応が促進させられるでしょう。


4.画線部の面積
 画線部が小さいと、画線部が大きいものより乾燥に時間がかかることがあります。これは、小さな画線部以外がほとんど水で覆われている版面上を、印刷のたびにインキ着けローラーが転がって行き、ローラーが版面から水をひろい上げ、その水をインキローラー全体に行き渡らせることになるからです。たえまなく水がインキの方へやってくるので、やがてインキは乳化し始めるでしょう。
 これとは反対に画線部が大きいと、インキ着けローラーからインキが早く移って行き、それほど水にさらされることなく、インキはインキつぼからブランケットへと、どんどんながれて行きます。画線部が小さい時には、湿し水に0.8%程度ファウンテンスティミュレーターを加えると乾燥が早まるでしょう。また湿し水にイソプロピルアルコールを10%から15%加えると、版面をきれいに保つのに必要な水の量を減らせるでしょう。